最近話題に事欠かない中国。
新型コロナウィルスや香港問題、一帯一路や尖閣の問題、米中の貿易摩擦など、中国絡みのニュースは毎日目にしています。
一方で自国にたてつく国に徹底的に圧力をかける戦狼(せんろう)外交という物騒な言葉も登場して、中国の強権的な姿勢に首をかしげる人も多いようです。
でも考えて見ると、とても不思議ですよね。
日本だったら、内政にしても外交にしても、行政府である内閣がまとめる政策を、立法府の国会で徹底的に議論してから法律として定めて実行します。
でも中国って、全国人民代表大会という、日本の国会のような場はありますが、議論しているイメージはありませんよね。
良く言えばスピード感がある、悪く言えばしゃんしゃん総会のような上が決めたことを黙認するだけ・・。
いったいどんな人たちが、どのように政治を動かしているのでしょうか?
今回ははそんな中国の政治体制について解説します。
この記事の目次
共産党と政府が一体化
さて、ここまで全人代を中心にして中国の政治体制について述べてきましたが、中国の政治体制には大きな特徴があります。
それは、中国全体が中国共産党の指導下にあることです。これは憲法で定められています。
このため、全人代、国務院、労働組合、国有企業、文化団体などに中国共産党の組織がつくられており、党が掲げる政策や方針などを実行するように働きかけています。また、全人代常務委員会の委員や国務院の各部長のような重要な役職に就くにあたっては、中国共産党が推薦することにもなっています。
このように、中国共産党と中国政府は一体化しています。わかりやすい例を挙げれば、中国共産党のトップクラスは中央政治局常務委員ですが、そのナンバー1で党トップの総書記の地位にある習近平は国家主席です。また、常務委員ナンバー2の李克強は国務院総理です。
この一体化は、軍事面にも見られます。人民解放軍は国の中央軍事委員会の統率下にありますが、中国共産党の中央軍事委員会の指導も受けます。
こうした、社会主義政党と政府が一体化し、政党が権力を握る政治体制を民主集中制といいます。北朝鮮やベトナムなどの社会主義国も、この民主集中制をとっています。ちなみにこれらの国は共産党にたてつく者は国内では犯罪者として厳しく取り締まられます。
また外国でも最近の戦狼外交の犠牲になったオーストラリアの例でも分かるように、徹底的な圧力をかけられてしまいます。こまかく言えばオーストラリアは共産党に反抗したわけではなく、中国の政策に反発したわけですが、共産党が指導する中国ですから同じことですね。
だからこそコロナウィルスが最初に発生したと言われる武漢を簡単に都市封鎖したのも、共産党が決めたらもう誰も対抗できないのであんなに簡単に事態が進んでいくんですね。
中国流の三権分立
共産党が国を支配しているシステムなため三権分立というシステムは中国には存在しておりません。実際、外務省のデータを見ると、今でも中国は「人民民主共和制」の国です。
でも前に触れたように実際は共産党による一党独裁制ですからちょっと注意が必要です。ではだれが、どうやって法律を決めたり、政策を実行したりするのか見てみましょう!
中国の政治体制の中心は全国人民代表大会(全人代)

中国の政治体制の中心は、全国人民代表大会(日本での略称は全人代、中国での略称は全国人大または人大)です。全人代は、中国の立法機関で、一院制の議会。日本でいえば国会にあたり、毎年1回、3月に北京市で開かれます。中国の憲法は、この全人代を国家権力の最高機関と定めています。
全人代の代表は、遼寧省や広東省などの各省、北京市・天津市・上海市・重慶市などの直轄市、内モンゴル自治区やチベット自治区などの自治区、回族やミャオ族などの少数民族、それに人民解放軍から選ばれます。任期は5年で、定数は約3000人です。
全人代の代表は、18歳以上の国民が選挙で選びます。ただし、国民が直接選べるのは、郷・鎮・県・小規模な市・大規模な市の区などにある各級人民代表大会の代表です。全人代の代表は、この各級人民代表大会の代表が選びます、つまり、全人代の代表選挙は、直接選挙と間接選挙を組み合わせています。
多くの権限を持つ全人代
全人代には多くの権限があります。憲法の改正、法律の制定、予算の審議などに加え、政府要人の人事権を持っています。
まず、中国の国家元首にあたる国家主席を選ぶ権限を持っています。現在の国家主席は習近平で、2013年からその地位にあります。
国家主席は、国内向けでは法律の公布など、国外向けでは条約の承認などを行います。任期は5年。2018年までは、連続して務められるのは2期まででした。しかし、この年の全人代で憲法が改正され、制限がなくなりました。これによって、習近平は現在の任期が終わる2023年以降も国家主席を務められるようになりました。
次に、国家主席の指名に基づいて、行政機関の責任者である国務院総理を選ぶ権限も持っています。
国務院総理は、日本の内閣総理大臣にあたります。現在の国務院総理は李克強で、2013年からその地位にあります。この国務院総理の指名に基づいて、日本の国務大臣にあたる国務院の各部長を選ぶことも、全人代の権限です。国務院総理や国務院の各部長の任期は5年で、連続して務められるのは2期まで。そして、国務院は、全人代、それにあとで述べる全人代常務委員会に対して責任を負っています。
さらに、中国の司法機関の最上位にある最高人民法院の院長を選ぶことも、全人代の権限です。最高人民法院は、日本でいえば最高裁判所にあたり、全人代と全人代常務委員会に対して責任を負っています。検察機関の最上位にある最高人民検察院の検察長も、全人代が選びます。
また、全人代には、中国の最高軍事機関である中央軍事委員会の主席を選ぶ権限もあります。中央軍事委員会は人民解放軍を統率しており、その主席は国家主席の習近平が兼任しています。
このように、全人代は多くの権限を持っています。しかし、年に1回しか開催されないことや、代表が約3000人と多いことなどから、柔軟な対応が難しいところがあります。
このため、常設機関として常務委員会が設けられています。常務委員会は約200人の委員からなり、全人代の代表から選ばれます。この常務委員会は、全人代の閉会中に法律を制定する権限や、国務院・最高人民法院・中央軍事委員会を監督する権限がある強力な機関です。
国務院
中国の行政機関です。
日本の内閣に当たりますが、最高国家権力の執行機関として活動します。また全人代に活動内容を報告する義務もおっています。
面白いのは、国務院のトップが総理と呼ばれるところです。総理の配下に、副総理、国務委員らが配置されています。
日本の外務省や厚生労働省などの省に該当するのが部と委員会で、それぞれのトップが大臣に相当します。国務院の仕事は概ね下記の内容になっています。
ポイント
・法律に基づき行政を行う。
・全国人民代表大会に議案を提出する。
・それぞれの部会や委員会を指導する。
・経済計画や予算を作成して実施する。
国務院について、中国大使館のホームページでは「国務院は総理、副総理、国務委員、各部の部長、各委員会の主任、審計署署長、秘書長からなり、国務院現任総理は温家宝氏である」と説明されている。
これを見ても中国の行政は日本の省庁のような、国務院が担っている事が分かりますね。
人民法院
中国の司法を担うのが人民法院です。
日本で言う裁判所が人民法院で、検察庁に当たるのが人民検察院ですね。
序列としては、最高人民法院をトップに、高級人民法院、中級人民法院、地方各級人民法院とがあります。
興味深いのは、司法もまた中国共産党の指導の下にあると言うことです。
例えば日本には、違憲立法審査権と言って、国会が作った法律を裁判所が憲法違反として判断する事がありますね。でも中国では、それはあり得ません。それどころか、全人代が作った法律に解釈を加えた「最高人民法院の解釈」なるもので補充することさえするそうです。日本とは全然違う制度を取っているわけです。
どうしてこんな政治制度なのか?
それにしてもどうしてこのような共産党による一党独裁の政治システムを中国は取り入れたのでしょうか。それは歴史を見れば明らかですが、中華人民共和国はもともと中国共産党によって樹立された国家だからです。手本となったのは旧ソ連(ソビエト社会主義共和国連邦)です。ロシア革命後の1922年に樹立された社会主義政権ソ連。この動きに共鳴して中国でも有志が立ち上がり、1921年に中国共産党が結成されました。
最初は小さな政党でしたが、毛沢東の指導によって勢力を拡大。日本軍や中国国民党との内戦に勝利した共産党が、1949年に中華人民共和国を誕生させました。ソビエト流のマルクス・レーニン主義や、それを中国風に発展させた毛沢東思想を理論的基礎として、共産党が権力をすべて掌握する政治制度となっています。
▽2020年全人代で香港国家安全法制を可決
それではここで、今年2020年の全人代について見てみましょう。ちなみに、先ほど述べたように、全人代は毎年3月に開かれますが、2020年は5月22日から28日までの開催となりました。これは新型コロナウイルスの影響です。
2020年の全人代の特徴は、例年発表してきた成長率の目標を示さなかったことです。
李克強総理は、その理由を、新型コロナウイルスの流行や世界経済の不確実性の高まりから、中国の発展も予測し難い状況にあるからだとしました。その一方で、2019年については実質GDP成長率6.1%を達成しており、中国が現代化の目標として掲げている「小康(ややゆとりがある)社会」を実現するための基礎は固まったと述べました。
そして、2020年の重点活動任務として、次の6つを挙げました。
メモ
①マクロ経済の実施を進め、企業の安定と雇用の保障に努める
②改革で市場主体の活力を引き出し、発展の新たな原動力を増強する
③内需拡大戦略を行い、経済発展パターンの転換加速を進める
④貧困から脱却するための目標を保ち、農業での豊作と農民の増収を促す
⑤対外開放のレベルを高め、貿易と外資の基盤を安定させる
⑥民生の保障と改善を中心に、社会諸事業の改革と発展を進める
このように、経済運営についての審議が行われた一方で、最終日の28日に、香港に対する国家安全法制を設けることも可決されました。これに基づいて、全人代常務委員会は法律の制定を進め、6月30日に香港国家安全維持法が成立、即日施行されました。
香港国家安全維持法では、政権の転覆、国家からの離脱、テロ行為、外国勢力との結託を犯罪としており、最高刑は終身刑。非公開での裁判や陪審員なしでの裁判を行うこともできるとしています。また、治安のための機関として国家安全維持公署を設け、その職員は、香港の法律に制限されず職務を行えるともしています。
この香港国家安全維持法ができたことで、これまで中国が香港に認めてきた「一国二制度」は事実上崩壊したといわれており、香港市民はもちろんのこと、台湾や米国にも大きな影響を与えています。
こちらもCHECK
-
-
最近問題となっている一国二制度や香港の問題について解説!
2019年に始まった香港の民主化デモ。2020年に入っても終息の兆しは全く見えていません。一見すると単なる政治的な要求だけに見えますが、実はその裏には香港独自のシステムや制度が関連しているのです。 今 ...
続きを見る
まとめ
ヨーロッパや、アメリカが自由主義や、人権の尊重を基礎とした国家体制を維持するために、権力を分立させています。
また日本も三権分立で権力を分散させる体制をとっている中、中国の政治制度は、権力が集中している権力集中制を取っています。
その中で、経済を底上げし、近年世界第二位の経済大国まで上り詰めた中国はもはや世界にとっても大きな存在感を見せています。
それは中国の長い歴史が育んだ中国の政治体制や、中国人の気質が今の中国の形を作り出した大きな要因だと思います。