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文化

誰にもわかるやさしい民俗学の話①桃太郎の話は、本当は何の話だったのか?『桃太郎の誕生』を読む

2020年6月14日

桃から生まれた桃太郎が、キビ団子を与えてイヌ、サル、キジを従者とし、鬼ヶ島の鬼を征伐するという昔話「桃太郎」は、誰一人知らない人はいないでしょう。子供達に夢を与える大変面白い話とはいえ、現実には荒唐無稽なたわいのないお伽話です。

しかし柳田国男は、この「桃太郎」だけではなく、「かちかち山」、「猿蟹合戦」、「舌切り雀」、「花咲爺」等々といった多くの昔話の背後には、「何か埋もれたる深いものがある」と考え、それを探求しようとしました。

実はこうした昔話は全国各地にあり、それぞれが多くのバリエーションを持って伝承されているのです。「桃太郎」は今日宣伝されえている岡山県だけの特産物ではないのです。柳田は、昔話のそうした様々のバリエーションを、どの部分がより古い要素なのか、どの部分が後に新しくつけ加えられたものなのかを子細に検討したのでした。

柳田によれば、多くの昔話の背後にある元の形は、同じ一つの話から派生したものであり、その話とは、日本人の信仰(宗教といってもよいでしょう)を表現している一つの神話が元の形なのだというのです。

日本の神話といえば『古事記』や『日本書紀』のスサノオやアマテラス、オオクニヌシの話を思い浮かべるでしょう。しかしそれらは、今の天皇家やその周辺の諸家の神話にすぎないのであって、実は日本人全体の神話ではないのです。

祖先信仰の神話

それでは柳田は、日本人の本来の神話をどう見たのでしょうか。ここでは柳田の結論から述べましょう。神話とは一般に神をたたえ、その来歴を語るものです。日本人は大昔から家というものを重視してきたのですが、日本の神話の原型の大筋とは、自分たちの家の来歴と後の繁栄の道筋が語られたものだというのです。具体的には、 

①神の子の不思議な誕生神の子が、「小さ子」という形をとって、信心ある者の願いにより与えられる。

②異常な成長と難事業の成就:その子が異常な成長を遂げて普通の人間には出来ない難事業をなしとげる。

③最善の婚姻と家の創生・繁栄:その後良き妻を得て幸福な結婚をし、家の始祖となりその家は後世ますます栄える。

これが、日本の神話の元の形だというわけです。それは家を重視し、家の祖先を神として仰ぐ祖先信仰の神話というべきものでしょう。我々一族は、そのご先祖が神に認められた貴い一族なのだというわけです。記紀神話も天皇家という神に繋がる家の成り立ちを説いている点では基本的に同様のものといえましょう。

この元の神話は、今ではもはやそのままでは残っていなくて、わずかに昔話や伝説のかたちでその残影をとどめているに過ぎないのです。というのは後世、様々な人が語り継ぐ間に、原型が壊れてしまって、大きく変容し、多くの異なった話が派生して様々な昔話が生み出されたのでした。とりわけ信仰の衰退という要因が大きく、さらに子供向けの話になっていったという童話化が大きな要因でもありました。おそらく今日の形になったのは、本としてまとめられた江戸時代だそうです。柳田は以上のように、祖先信仰の神話の変遷を考察し、その原型を再構成したのでした。

神話から昔話「桃太郎」へ

それではこの原型神話がいかにして今の昔話の「桃太郎」になったのかを見てみましょう。

①神の子の不思議な誕生

神の子は、普通の子とは違った不思議な生れ方をします。これが第1のポイントです。多くの昔話は、この不思議な誕生を様々に表現しました。竹から生まれたのが「かぐや姫」、瓜から生まれたのが「瓜子姫」、等々、そして桃から生まれたのが「桃太郎」ということです。他の昔話では、蛇、蛙、雀、田螺(タニシ)などの形をとって生まれることもあります。ポイントは桃から生まれたという点にあるのではなく、不思議な誕生をしたという点にあり、桃はそのバリエーションの一つに過ぎず、話を面白くするための手段に他なりません。

 その際、神の子は最初は異常に小さく、後に急速に成長するという点が、第2のポイントです。それは、この子が神の霊力を持っていることを表現しようとしているのです。これを柳田は「小さ子」物語と名付け、昔話の元々の骨子だと考えました。「一寸法師」や少彦名(スクナヒコナ)の話など多くの話があります。竹や瓜や桃から生まれるのは、本来、極めて小さいことを意味しているのです。しかし今の「桃太郎」は、この点がぼかされ、大きな桃から生まれるという形で、子供にも分かりやすい形になってしまいました。

②異常な成長と難事業の成就

神の子が異常な成長を遂げて普通の人間には出来ない難事業をなしとげるという話のポイントは二つあります。一つは恐るべき敵があることです。恐るべき敵とは、昔からこれを鬼と呼びならわしてきました。他の昔話ではアマノジャクや山姥という名で出てくる場合もあります。神の意志の妨害者がこうした鬼などとよばれるのです。桃太郎の難敵はそのまま鬼と呼ばれ、武勇を持って鬼ヶ島の鬼を退治する話となります。鬼ヶ島征伐が重要なのではなく、神の敵を征伐する難事業を成し遂げたという点が重要なのです。

第2のポイントは、ある種の動物の援助を受けるということです。神の子のために神自身が動物の姿を借りてこれを助ける、あるいは神の使いとなった動物がこれを助ける、ということを意味します。その動物は、桃太郎では犬・猿・雉となりますが、それらは一つのバリエーションにすぎず、神の化身ないし使いのものにより助けられるという点がポイントなのです。他の昔話では、単に鳥であったり、カラス、ニワトリであったり様々です。

桃太郎の物語では、犬・猿・雉とともに鬼ヶ島征伐をするところが最もワクワクする話になっていますが、それは子供たちに話を長くかつ面白くするために、この部分を特に膨らませた話となったのです。

③最善の婚姻と家の創生・繁栄

この難事業を成し遂げる中で、我一族の始祖は、良き配偶者と良き家を得、さらに良き子をもうけて、一族は末永く栄えるとすることで、祖先信仰の神話は完結します。ここでのポイントの一つがこの「妻もとめ」ということにあります。ただ単によき妻を得たことをもってめでたしとせず、さらにその妻の力によっても成し遂げられるのです。これが「幸福なる婚姻」です。「一寸法師」や「ものぐさ太郎」など、多くの昔話にその跡を残しています。

昔話に神話の名残あり

しかし今日の「桃太郎」は、子供にのみ聞かせる童話となったため、故意にその求婚談を省略し、もっぱら鬼ヶ島征伐の無邪気な武勇のみを説く話に変化しているのです。このように童話は一般に長い間にかなり自由に改造されてきたのです。

以上が、大昔の祖先信仰の神話が、長い間に換骨奪胎されて今日の昔話「桃太郎」になった道筋でした。柳田国男の類稀な分析力と構想力の結実ですが、本当にそうなのかという点では、なお確信できないところもあるように思われます。

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